前にもちょっと触れたがヨーロッパで『ユングがユングが』と言えば相当白い目で見られる。
社会ダーウィニズムだけでなく、ナチスドイツは心理学・社会学を政治方針に反映させる事に熱心だった。
ある意味、画家として失敗したヒトラーの反動形成の結果としての『ゲルマン第三帝国の夢』は「パッチワークのような理論武装」によって、意味不明のユダヤ人性悪説(おそらく「ユダヤ人」という概念にヒトラーの個人的ななんらかの背景が投影してたのだろう)に結びつき、当時のヨーロッパではユダヤ蔑視感があったので(ユダヤ人の密告に関しては、占領されたフランスも積極的だった)大変な悲劇(犯罪:ホロコースト)に繋がった。
※ユングに関しては「マンダラ話」があるように、オカルト系に属するの学派なので、チベット密教などにも入れ込んでいたナチスとしては関連付けとして都合も良かったのだろう。
そんな歴史的経緯もあって「精神分析」は、もっぱら個人心理学としての側面であり続けることが、一種の不文律みたいなとこがあるのだが、「個人」の存在自体に社会の関係性を抜きに説明する事はナンセンスだし、社会学そのものが個人の心理につて「けっこう適当」なとこがあるので、余計に「精神分析的にはどうなの?」って事に触れざる負えない。
とはいえ、精神分析の社会学的側面は「個人にとって」という部分に絞られてくる。
そもそも社会なる言葉自体、近代以降に使われている言葉で、「文明化(志向)」と分けて考える事はナンセンスになる。
つまり社会には文明的な志向性があるんであって、単に「人がよりあう集団」という意味では無い。
そんな意味もあって、ラブ&ピースなヒッピームーヴメントってのはSocietyではなくCommune(意味合いとしては「村」に近いか)になる。
「社会適応」という言葉は、当たり前の現象を指すのではなく「立派な軍人になる」ぐらいの勢いの「特定の概念に対する参加者」を意味している。それが血縁関係社会でも、地域的社会でも、利益共有型社会でもその実は同じだ。
「ドロップアウトする集団を企画してみた」っていうのが、ラブ&ピースなムーヴメントになるからだ。
しかし現代社会では「共棲」という言葉が頻繁に登場するようになった。おそらくこれは「社会性」とは別のジャンルになる、そもそも高齢化社会とは労働者として文明化に参加するワケではないので、リタイア(ドロップアウトに似ている)した高齢者の人権や生活を真面目に考える事でもあり、集団を捕らえるカテゴリーとして「社会かな〜」な事になりつつあるのかも知れない。
つまり「社会人」が「成人年齢の勤労者」を意味する言葉として随分と使われた時代があるが、昨今この言葉が使われる頻度は益々低下している。
元々がけっこう笑えるぐらい儀式的なものだった、
典型例は成人式で、年齢が法的に大人になったとかの理由で、戦前の徴兵性じゃあるまいし、お上が式典を開いて何故か当たり前であるかのように若者が参加した。この時礼服だかを買うとか和服を着るとかで洋服屋さんが儲かったり、美容院が大変な事になるというのもどこか笑える。
そんな根拠希薄な儀式だから(伝統的な地域の習俗と呼べるような代物ではない)、徐々に同窓会の口実になり「お祭りの形骸化」で騒ぎどころを失った若者が暴れる等、現在マジな笑い話になりつつあるのも不思議な話じゃない。
ここには「社会」なるものを構成する要件がデフレ以降後退している事を意味していて、都市でも地方でも「人が組織的に行動するモチベーションの根幹が揺らいでいる」と考えていい。
社会と呼ばれた「群れが存在する概念」が崩壊し(=所得文明化共同幻想の崩壊)、環境と化した文明社会(政治・文化・経済・情報のバックグラウンドの方)との「共棲」のような概念になりつつある。ここは「社会」に代わる新しい言葉のひとつでも登場してもおかしくない。
(そんな意味でも「社会主義」なる発想の、テーゼ自体は既に壊れている)
そこから見ると、過渡期の今「社会不適応」であるとか「非正社員」であるとか「ニート」であるとかの「人々」ってのは、「共棲関係に失敗しているのか?」という尺度で見れば「むしろ成功している」と見ていい、
「ドロップアウトのように見られがちの“人々”は文明化社会から脱落し、どこいらの山で原始的な生活を始めた」
こんな事は聞いたことが無い。
政治的に「文明社会のバックグラウンドをどう維持するのか」という話も、「グローバルな環境の競争=生き残り」として考えられていて、高度経済社会に見られたような「ほっときゃ成長する歯車をどうやって早く廻すか(そこへ社会人を送り込むか)」という発想ではなくなった。
高度経済成長期での教育なるものは、その成長に貢献する人材を意味していたが、今の教育論はそもそもが違っている「教育の質」とかいうものは各個人の利益として認識されていて、
「税金納めているんだから公教育とはこれぐらいの還元を質的に担保してもらわなくちゃ困る」って感じだ、
そもそも公的教育ってテーマすら「困るって誰が何を?」って部分は漠としていて、何が何だかわからない論議になっている、
何せ一番ホットなテーマは失業ではなく年金だ、
「文明化社会を維持し、そこでいかに暮らすのか?」こっちの方が重要なテーマで、「社会を人的に構成する」という時代は終わったのじゃないか?
社会学的に見ると、精神分析が考える事は「関わり方」でいいのだと思う。社会適応とか不適応等という話は死語であっても困らないのであり、むしろ分析を進める上で邪魔な概念かもしれない。
つまり「バックグラウンドとしての文明化社会」との適応が問題になる事例はほとんど無いので、話を個人に還元すると「文明レベルの生活をいかに維持し、そこでどういったライフスタイルを発見するのか」と、
そもそもフロイド当時の「封建時代の残滓であるカソリック的戒律社会と個人」と現代ではテーマ自体が変化している、
バックグランドは個人の在り方を考える上で重要な要件だが、このバックグラウンドが「個人と全く無関係に時代に応じて変化しちゃっている」のであって、あまりにそれに依存すると精神分析そのものがその時代に囚われて偏った方向に解釈されかねない(一昔前の心理学には「明らかに高度経済成長下で如何に個人を定義するのか」としか捉えられない半端な論議が山ほどあった)。
バックグラウンドの論議を無力化しつつ、バックグラウンドとの関係性を個人を単位に如何に考えるのか?
こりゃ随分とやっかい(下手すると構造的に矛盾している)な話なのだが、そうなんだからしょうがない。
個は単体で個と定義できない。個が総体を意味すればそれは「全体」になってしまって個として在るのかっていうと随分と疑わしい話になる。
人はひとりでも生きていいけるが、人はひとりでは「独り(=個)」足りえないのであって、個である事の成立要件がバックグラウンドとの関係性って事になる。
自我サイドで考えると、『選択』が、そのテーマになるだろう。
つまるところ精神分析が考えるのは「個である実存を認めるのは個の判断や選択によって証明できる」を前提に、その「判断や選択を妨げる要因をストレスと考えるところから、その脅迫(強迫)構造を分析する」事が命題になるが、ここで「バックグラウンドとの共棲を実現するための合意(時代選択や無制限な自由は存在しないので)と強迫をいかに区別するのか」は非常に難しい。
一般的な論議をするなら
「社会人としていかにも社会復帰するのを、精神的な悩み(医学的には病気)からの回復」とするのはいかにも短絡的過ぎる。バックグラウンドとの関係性を共棲として選択するのは本能以前の生理的選択で(寒い部屋にストーブがあればスイッチを入れるのが合目的であるように)、バックグラウンドに対する反抗は「選択的革命」なのでこれも関わりの一例で、そもそも悩みとの関連性が無い。
※今の時代が気に食わないので、時代を反転させようと悩む事は無い、精々「生まれた時代が合わなかった」とがっかりするだけで、構造的にバックグラウンドに対する不平不満は脅迫(強迫)的な精神的な悩みに繋がる事は無い。同じように「気の合う国へ移民する」という事は在り得ても「生まれた国が不満で精神的な悩みになる」事も無い。
なので、
考えるべき事は
脅迫(強迫)性の背景になる圧力としてのバックグラウンドを「間接的な脅迫(強迫)性へのストレス」と見ることであって、ここを自我の直接のストレスと考えると、その分析は「単なる道徳論みたいな中途半端なものとなる」。ところが「本人が感じるストレスは、もっぱらバックグラウンドとの関係性の結果」になるので、つい「悩みの正面はがバックグラウンドとのインターフェース」に見えてしまう。
妙な話で「間接的な問題が、直接的な問題より優先して見える」という現象こそ「公的判断の実存」なのかも知れない。やっかいなもので前述のとおり「個の実存はバックグラウンドとの関係性の結果で証明される」ので、
「個の選択」こそ「公」なのかも知れない。
その全体像を「社会」という言葉でくくるのはやっぱ無理がある。
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