2007年09月06日

阪神今岡の悲劇

プロ野球に興味の無い人には面白くも無い話かもしれないが、事この話は「自意識と無意識」を知る上で深刻なぐらいわかりやすい話なので、そんな目線で読んでもらえたらと思う。

心理学系の人間としてはプロ野球といえばそりゃ当然元南海・元ヤクルト・元阪神・現楽天の野村監督のファンなんだけれども(所謂野村再生工場と呼ばれた一種の覚醒術は心理学である事に間違いない)、その延長で去年だったか”古田論”を書いたことがある。
長年古田をキャッチャーとして見て来た人間としては待望のプレイングマネージャーだったんだが、ご存知のように今年のヤクルトは完全にズッコケテいて、これ明らかに監督古田の責任。古田論の時には「一度も本気出した古田を見たことが無い」って話の延長で、逃げも隠れもできない監督になれば本気出すか?って論点からその時はあれこれ考えてみた。

それがだ、石井や高津って出戻りメジャーリーガーの友達が合流したのがいけなかったのか、秋季練習の予算もケチり、相も変わらず(岩村のポスティング予算があるって言うのに)重要な戦力だったガトームソン・ラロッカを放出してしまうフロントの資質に嫌気が差したのか、古田は「本気出すところか、余計に内向化」した。
本来マスク越しにキャッチャーとして裏から悪どいとも言える負けず嫌いの本性出しているのがよっぽど彼にとって楽だったのかと、嫌というほど思い知らされた。
ある意味彼の黄金時代(=ヤクルトの黄金時代)は、強制的にノムさんが「ヤレ馬鹿野郎」的に古田の負けん気に火を付けていた事が、彼の内面的な”野球”ってものをグラウンドに吐き出す触媒になっていたのかも知れない。

ヤクルトを長く見てきた人間から見れば、今年の采配ほど不可解なものは無い。
まるで「継投は伊藤さんのせい」「野手のオーダーは八重樫さんのせい」とでも言いたいのかと思うぐらいさえない構成で戦いつづけて、最下位が見えようかって体たらくだ。
誰が考えてもガイエルは7番か8番だし(野村時代から勝負弱いが一発屋の指定席は下位打線と相場が決まっていた)、リグスが故障で離脱した段階で(このリグスも、もっと早い段階から故障者リストに乗せるべきだった)1番青木を生かすなら2番田中、故障がちで全試合出られなくても3番宮本(かユウイチ)4番ラミレス5番宮出(をサードに固定)だけは動かしちゃいけなかったし、継投に関しても木田・高津の限界は最初からわかっていた(抑えをどうするも何も長いイニング投げられない藤井か中継ぎで実績のある花田でも考えておくべきだった)。まだまだ一軍レベルじゃない高井に何故拘るのかさっぱりわからなかったし、特にここじゃダメだろうなところで木田を起用する不可解ぶりはどうにも納得いかなかったし、一番酷かったのは回の終盤で常に守備固めが遅れる事だ。
「まさかエラーが出るとは?」なんて信じられないコメントで(セリーグの野手で一番エラーの多い選手に守らせてるのは誰だっちゅうに)、彼がキャッチャー時代に見せていた試合を読む力やDATA野球ってのは一体どこへ行ってしまったのかとすら思う。

それでも古田はまだ幸運だ、選手時代には押しも押されぬ名選手として黄金期を築いたし、なんだかんだいって監督の地位で、来年も?な状況だ。
古田の悲劇ってのは、野村野球ってものを軽視するほど”自分が名選手だった”事だろう。
当時のヤクルトの人材の大半が現在他球団のコーチとして重用されていく(尾花・伊勢・広沢・金森・角は今評論家だけれど・小早川・荒木、飯田はヤクルト2軍そして現楽天の池山・山田・橋上・杉山)のに比べて以外な事にその古田が一番野村野球ってものを軽視していたのかも知れない。
最下位が見えた今になって(まーこの投手には前から辛らつだったけれど)
■古田監督、3回KO松岡を公開説教
http://www.daily.co.jp/baseball/2007/09/02/0000590688.shtml
試合中にベンチの前で『キャッチャー』を説教するのはノムさんの専売特許だけれど、
ちょーっとレベルが違うが、「古田も動き出したか」と思う。

そんな古田に比べて本気で悲劇な人物がいる、
誰あろう阪神今岡だ、
今岡といえば現セリーグの中でもバットコントロールに関しては天才(谷以上じゃないか)中の天才で(顔の前を通過するようなインコースのボールをホームランするのは彼ぐらいだろう)野村阪神時代に新庄とともにノムさんが最も期待した野手のひとりだった。
その才能を見込んでノムさんは彼を随分と3番なんかの主軸で起用し続けたんだけれど、野村時代はさっぱりで、彼が開花するのは星野阪神となる。
そんな当時の野村監督の今岡評って「妙に覇気が無い」とか「気持ちを表に出せない」とかの彼の人格傾向に関わる部分で、野村と犬猿の仲だったスポーツ新聞スポニチは野村監督と今岡に確執があるかのような偏向報道やったほどノムさんは随分とあれこれ今岡の事をボヤいていた。確執とまでいかないが、そのノムさんのやり方を今岡が面白く思っていなかった部分があるは事実かも知れないし「精神的苦痛を」とかのコメントが野村辞任後の契約交渉時にニュース媒体に飛び交ったような記憶もある。

この時の今岡君の選手としての印象は?
凄まじい確率でゲッツー(併殺打)を打って狙いすましたようにチャンスを潰す男だった。
野村監督って人は、配球を読む事で「必ずチームの何人かがやたらと勝負強い」ってチームを作る。つまり得点圏打率の事で、ヤクルト時代には土橋・古田・秦(代打の切り札)、阪神時代の新庄(後にNYメッツでもクラッチヒッターと呼ばれた)、今の楽天で言えば高須・草野、ノムさんが阪神時代に最も期待した選手のひとりが”今岡”だったのだろうと思う。
その選手を見る目が正しかった証明は、星野時代にこの今岡が147打点という天文学的な数字で、打点のタイトルを獲った事でその後証明されるんだけれど、それぐらいの潜在能力がこの今岡って選手にはある。
しかし、この選手ほど「表に出たり裏に出たりする選手」はプロ野球の世界でも滅多にお目にかかれない。
彼の選手としての力は打率.340で首位打者を獲る事もできるし、打点147で打点王にもなれる力があるんだけれど、この彼の数年の黄金時代にも「その影」があったのは事実。
ここの数字に着目してもらいたい
2001 打点40 打率.268 HR4
2002 打点56 打率.317 HR15
2003 打点72 打率.340 HR12
2004 打点83 打率.306 HR28
2005 打点147 打率.279 HR29
2006 (故障もあってあまり試合に出ていない)
この数字を見て一番不思議に思うのは、
彼は打率を稼ぐ中距離打者なのか、打点を稼ぐ長距離打者なのかもはっきりしないし、本塁打4から突然30本近い本塁打を打ってみたり、天文学的な打点を稼いだ2005には何故か打率が彼にしてみれば極端に低い.279だったりする。
その彼が野村時代は「併殺打の天才(”逆”得点件打率が6割近かったように思う)」

それでも、ここまで見ると今岡って選手は星野時代に開花して、順調に大打者への道を歩んでいるようにも見える。
ところが、
2006の故障の影響もあるんだろうけれど、彼は今年とんでも無い離れ業を演じた。
「前半戦で5番打者の中軸を打ちつづけ打率.300をキープ」
これだけ見るといかにも今岡故障から復活と見えるんだけれど
「打点が17しかなかった(パリーグのどっかのチームの9番打者並)」
これは一体どんな数学的確率で可能な数字なのか?
まるで”今岡の奇跡”とでも呼べる突拍子も無い数字で、
想像するにこの前半戦の今岡選手は「得点圏にランナーがいる時には、打たないか見事な確率で併殺打を打ち、同時にランナーのいない時だけは4割近い打率を誇った」事になる。
こんな奇跡を演じられるほどのバッティング技術を持っているのは、今のセリーグ見渡しても他にちょっと思いつかない。。

野村阪神時代の彼を知れば、このチャンスに凄まじい確率で併殺打を打つだけなら驚かないんだけれど、事もあろうに彼は得点と関係ない所で4割近い高打率を見せる事を同時にやってのけた。これどういう表現にすればいいのかわからないだけれど「逆打点王なのに好成績だ」な異次元の世界に突入してしまい、
阪神ファンからも「ちょっとどうかなこの人」として知られる岡田監督(通称:どんでん)ですら、ついに彼を「打率3割なんだけれど無期限の2軍行き」を命じた。
3割打って2軍行きってのも珍しいんだけれど、この時”阪神そのもの”にとんでも無い変化が起きた。
2億を超える年俸の今岡を『無期限登録抹消=理由無し』の瞬間から、
「首位も狙える阪神連勝街道大ばく進ーーー!」
如何に今岡の負の構造が、組織としての阪神タイガースってチームを巻き込むほどの”暗黒面”だったのかを如実に物語る。

プロスポーツって世界は「如何に自意識的思考(準備)と無意識的反復(トレーニングによる反射的技術)をケースに応じて切り替えられるのか?」が勝負の場所で、
自意識と、無意識の関連を目で見る事のできる非常に面白い存在で、
ここ「サッカーの日本代表のシュートはどうしてゴールマウスを外すのか?(笑」にも言えている話。
あの皇帝ナカタの存在が光ったのも(同時に彼に対する批判も)、彼が「考え(自意識)ながらプレー(無意識)」できる選手だったからで、
ノムさんの”野村再生工場”ってのは、「プレーのスタイルを一流プレーヤーに近づけると、目立った成績を出せない選手がレギュラークラスにとたんに覚醒する」な”意識付け”の事で、概して成績がパッとしない選手(肝心な時にゴールできない日本代表も同じ)は往々にして「考える(自意識の)タイミングを間違えている」事に気がついたところに始まる。
考えるのは動機形成だから、”プレーの直前”に行うもので(打者なら”読み”、投手なら”配球”)、動機形成を”セット”して”迷わず”プレー(無意識的前意識のスイッチON)とする流れを作ると俄然成績(選手としての欲求)が成功裏に終わる確率が上昇する。
な事がわかっているので、ノムさんは「とにかく特徴のある奴いないか」な選手集めをする。

そこに異様なまでにバットコントロールの上手い今岡って選手がいた。
無意識、自意識で言うなら、
彼は「こうやって打ってランナーが戻る」と考える事もできるし(147打点)、逆に意識が内向して「ここで併殺打になれば、、」と力むと(無意識が不安に思う事を現実に再現しようとする「被(こうむる)」プロセスが起動して)、狙いすまして(ここは無意識)「併殺打の山を築く事もできる(3割前半前17打点)」。
古田が、野村監督の厳しいプレッシャーを触媒にしていたように、今岡って選手には「ノムラの考え」を経て→星野って監督が触媒になったんだと思う。
なんて言うか、自意識を押出すための”意識”が外部化(野村や星野)されて機能していたのだけれど、古田は野村監督へのライバル意識、今岡は「最後まで野村的な意識付けに馴染めなかった未覚醒」により、これが逆の目に出る爆弾を抱える結果となった。
本人に実力がある分、『ネガティブを実現する能力も人一倍』
これが、「”あの”広島を抜いて最下位か?」と「え?三割なのに無期限登録抹消か!」な悲劇を生んだ。

特に今岡の場合、心理的には今非常に厳しいところだと思う。
彼が進退を口にしてしまうのも「はぁ〜そりゃそうだろう」でしょう、
果たしてこの今岡って選手の覚醒はあるのだろうか?って、ここは今後数年のプロ野球の世界を通じて見守っていきたい。。
posted by kagewari at 23:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 精神分析時事放談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする


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