2008年10月24日

『家族の報酬(2)』

思うに、近代以降現代社会直前の「核家族の時代」には、”家族”の概念には一定の「自由の象徴化」があったのだと思う。
現在社会における個人の尊厳時代の直前となるのだから、核家族の尊厳とでも呼べばいいか。
つまりこの時代の到来(文化住宅なんて言葉が流通しだしてから)の意味は、育児も夫婦で決めるとか子供の進路も”世帯”で決めるとか(ここに並行して天皇家の在り方が連動しているのがポイント)、封建的な世界からの脱却がそのイメージにあった。
しかし、突然正当性根拠を”核家族”に委譲されても、哲学も企業理念も未熟な”核家族(これ事実上家内性の法人と同じ)”は誰しもが革命家でも無いのだし、誰しもが政治的一家言のある世帯である筈が無いので、結果としては草原に放り出された格好になり、
『受験戦争』やら『一戸建て戦争』やら『分譲マンション戦争』やら(事の始まりは”三種の神器:白物家電戦争”)、ある意味未成熟な市場が暴走するように”大騒ぎな時代”を迎えてしまう。
その暴走する時代を背景に、家族の報酬と言えば「内輪」として運命共同体的な意味で”戦争における小隊”のような格好だったのかも知れない。
この当時受験戦争が勃発したのは、「同じように戦ってなくてどうする」みたいな一種の強迫(背景に競争社会に対する不安)がかかってのものだったんでしょう。
”一億総中流”なんてあり得ない妄想も、コアを失った共同幻想の姿そのままであって、それは『報酬を見失った時代』だったのかも知れない。

現実問題「敗戦」は、敗戦なんであってGHQによる占領以降共同幻想の再編は事実上不可能になったのだし(そもそも明治以降日本の共同幻想の非合理性は一杯一杯だったので再編も何も事実上不可能)、今でもそれが「憲法改正」だと信じている人もいるようだけれども、それは共同幻想どころか非現実的な夢に過ぎないんでしょう(政治的な意味は別個の話)。

日本にバブルが登場する「前川リポート(中曽根内閣)」以降、日本は事実上アメリカの占領から独立したと言えるのであって、当初その『報酬』は”バブルという金”で配当された。
つまり、その間さっぱり我が国の核家族には哲学やら企業理念やらもさっぱり醸成されてくる事は無くこの時にも金しかなかったワケだ。
バブルは”共同幻想どころかそのまんま非現実的夢”として破綻し、ゴソゴソと独自に動き出した核家族にとっても「熱が醒めたら虚しいだけ」のような代物であって、
仕方が無いので「漠然とした個性(という強烈な論理矛盾)でどうでしょうか?」と→”ゆとりの時代”に突入した。

この間何があったのかと振り返れば、
報酬と呼ぶべき報酬はほとんど無く、「人間の性や生として家族というセルユニット以外何があるのか」的僅かに残った共同幻想の中でそれが維持されてきただけなんだと思う。
ここでググーっと、古来の共同幻想の在り方から”あった筈の報酬”を逆算して考えてみれば、上流階層にとっては「家督相続」であり、一般民衆においては「集落への帰属(アイデンンティファイ)」だった。
前者であれば、家督を相続するべき後継者でなけば報酬にならないのであって(武家が嫡子を実母が育てず一種の帝王学として教育係に任せるように)、いかに立派な後継ぎとして自立できるのかがテーマであり、
後者は、集落のお祭りなんかで皆で幸せを喜び合えるように、いかにとっとと労働者として集落の生産性に寄与する大人になったのかがテーマだった。

つまり、古来の共同幻想明らかな時代には(それぞれの思惑は違っても)「人が育つ場所」であり「こっちの利益はあっちの利益」が同時に成立していたとも言える。
重要な事は、中世の権力構造同様に、「大人になれば配偶者も世話する」という格好で、世帯は性の権限を持っていた(この当時の”縁談”や”お見合い”が不利益な事だと思っていたら大間違いで談合文化じゃないけれどもこれは当時の大人になる子供の特権だったと見ていい)。つまり様々な意味で「人が大人になる場所」だったと見ていい。
先代は役目を果たして隠居の栄誉を得、若い夫婦は一人前の後継者になり、子供は大人になる。その正当性は上部階層の封建権威が保証した。

再び現代社会へ、
個の時代、個の尊厳、
高寿命社会であり、非婚・晩婚が一般化し、世帯の形もシングルマザー等多様化していてむしろ自然で”核家族”ですら一般的な存在では無くなった。
古来の共同幻想は、文明化により解体され「大人の定義(正当性)」は上部階層における権威性から各個人に戻された訳で、
「大人の概念」が完全に変わった。
そもそも家族の報酬は?
この世には「無礼講」って言葉がある、
自分の考えを述べるなんて場合にも、どんな関係が在り得るだろうかと言えば親友レベルじゃないとなかなか難しいもので(特に保守的人格で共同幻想協調型なら特に)「くだけて話せる」って場所はそうそう無いもので、家族の報酬ってものはそんなところにあるのだと思う。
※なので相対として単独構造型人格で、実存主義的単独者は家族の概念そのものが解体されていく(単独者にもそれが在ると仮定するならほんとにミュージシャンにおけるバンド(集団)的位置付けで自然なのじゃないか)。

つまり、
そんな現代社会で、家庭を選択する保守世帯が「コミュニケーションに問題を残す」のだとしたら?
これがいかに世帯にとっても所属個人にとっても(そのレーゾンデートルの根本に関わる)問題となるのは誰の目にも明らかだ。
posted by kagewari at 21:44 | 精神分析時事放談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする


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